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ダイヴ・バー No.6 - Hacchi-

2017/06/23 (Fri) 21:52:24

「ヨ~ ユウヘイ! 調子はどうだい?」
「ヨ~ グレッグ! まあ、悪くないよ。 そっちは?」
「こっちも悪くないよ」
「ところで、グレッグ。 例のお茶飲んだ後、どうだった?」
「あ~あれか!? 結構トリッピーだったかな!?」 と、グレッグは、首を捻りながら、軽く後頭部を二度ほど叩くと、少し照れたように、「でも、正直なところ、あまり覚えてないんだ。 お茶飲む前に、結構ビール飲んでたからな。 でも、自分のベッドで目が覚めたから、俺にしては、先ず先ずじゃないか!?」 と、同意を求めるようにウインクする。
 この大酒飲みのグレッグ、パーティの後は、ラウンジのソファーで倒れたように寝てしまうのが常だ。 
その彼が、昨夜は自分のベッドで寝たということは、奇跡であろうという意を込めて言ったのだが、奇跡でも何でもない。
昨夜彼は、エンジェルストランペット・ティーを飲んだ後、暫くしてから、優平同様、距離感を無くしていた。しかし、相当酔っていた彼は、その自覚が無く、「今夜の酒は、かなり効いてるな」 ぐらいに思っていた。トーガ・パーティで混み合うラウンジにいた彼は、飲みかけの缶ビールをテーブルに置こうとして床に落とし、それを屈んで拾おうとしたのだけど、その姿勢からでんぐり返しで床に仰向けになり、起き上がろうとして、タックルするように人々に突っ込むという、醜態をさらけ出したのだ。
彼を知るスタッフや長期滞在のゲストは、「やれやれ。 今夜のグレッグは、特にひどいなあ」 と、目で語り合う。
事の顛末は、ホステルスタッフに両肩を抱えられ、ベッドに放り投げられたということだ。
 時に、一時的に記憶を無くすということは、幸せなことなのかもしれない。

「お前の方は?」
「それが・・・」 と、優平は、昨夜身に起こった出来事をグレッグに語った。
ときおり、相槌を打ったり、感嘆の声を発したりして、話を聞き終えたグレッグは、「ハッハッハッ」と、一つ大声で笑い、「それは、かなりトリッピーな体験をしたものだな、ユウヘイ。 全然覚えていない俺は、なんだか損をした気分だぜ」 と、心底残念そうだ。
「ところで、グレッグ。 ちょっと新聞読んでみろよ!」 と、優平は、読みかけの新聞をグレッグに渡す。
「なんだ? 我が大統領が暗殺か何かされたか?」 と、新聞を受け取り、「どれどれ」 と、一面に目を通す。
目を細めたり、開いたり、瞬たいたり、紙面との距離を近づけたり離したりするグレッグ。
優平と、まったく同じ動作を繰り返し、少し青ざめた顔で優平を見やる。
優平は、二、三度頷いてから、「俺もお前と同じさ。 ヘッドラインは読めても、本文の字は、ぼやけて読めない」
「おいおい。 エンジェルストランペットの後遺症か!?」
「おそらく、そうだと思う」
「他に何かおかしなところは?」
「いや、これといってないな。 距離感は戻ってるし、特に気分が悪いわけでもなければ、すこぶる快調というわけでもない。 お前の方は?」
「俺か!? まあ、軽い二日酔いの症状があるだけかな。 おやっ? 腰から背中が痛いのは、その後遺症か!?」 と、顔をゆがめ、腰から背中を擦る。
「それは、どうだろう?」 グレッグを知る優平は、大方飲み過ぎて、転んだか、ベッドから転がり落ちたか何かしたのだろうと思ったが、それは言わず、「まあ、とにかく昨日の今日だ。 ここは、しばらく様子を見てみようじゃないか」 と、グレッグの肩を二、三度叩いた。
元来、楽天家のグレッグは、にやっとすると、「それは、そうだな。 今日のところは、おとなしく良い子にしとくか」 と、伸びをすると、膝を一つ叩いて、ゆっくり立ち上がり、「シャワーでも浴びてリフレッシュするか! またなユウヘイ!」 と、ラウンジを去って行った。

 結局、新聞が読めるようになったのは、それから三日後の朝だった。
それまで、一抹の不安を感じていた優平は、カリフォルニアの青い空のごとし晴々とした気分で、散歩に出かけたのであった。
 一方、グレッグの方はといえば、毎夜の深酒が過ぎたのか、視力の回復に優平から遅れること二日余分に費やしたのだった。

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