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【ダイブバー No.21~22】あらすじ - Hacchi-

2018/09/25 (Tue) 08:52:04

【ダイブバー No.21~22】  2010年6月
“ スペースクッキーでボードウォーク ”

 夏休みに入ったサンタモニカ・カレッジのキャンパスは、閑散としていた。 
それでも、南カリフォルニアの夏の日差しを楽しむかのように、芝生で寛いでいる学生をあちこちで見かける。 リサは、コーセア・スタジアムの400mトラックをハイペースで4周走った。 
タイムは5分を少し超えた。 
高校時代のベストタイムには、到底及ばないが、悪くない。 
その後、隣にあるスイムセンターに向かう。
顔見知りのラテン系アメリカ人の警備員と挨拶を交わし、50mプールをクロールでゆったりと、4往復してクールダウン。
 トラックを走るのもプールで泳ぐのも、面倒な手続きも無く、気ままに出入り出来る。
これが日本だったらと思うと、リサは、ちょっと憂鬱になる。
 適当な木陰の芝生に座り、パイプに一つまみのマリファナ、ブルードリーミングを詰める。
草の強烈な香りが鼻をつんつんと刺激する。
その香りを楽しんだ後、軽く一服吸い、ゆっくりと煙を南カリフォルニアの青い空に向け吐く。
そして良く冷えた水筒の水を飲む。
最高! と心の中で叫ぶ。
 ゆっくりと深い呼吸を繰り返しながら、一つ一つの筋肉と会話するように時間をかけてストレッチする。
これほどの崇高な一時が他にあるのだろうか。
エクササイズ後に軽くマリファナを吸ってからのストレッチ。
最高の組み合わせだわ、と恍惚感に酔う。
 すっきりと心身ともにほぐれたリサは、サンタモニカ・カレッジを後にし、足取りも軽く、ピコ・ブールヴァドをビーチに向け歩く。
ビーチに着いて、ボードウォークをなんとなくヴェニス方向へ歩く。 
 一人のアフリカ系アメリカ人の若者に目を止めた。
彼は所在なく、ボードウォークの脇の砂浜に座っている。 
マリファナでハイに成っているのか、他のドラッグでストーンドしてるのか、目は虚ろで、どこかに飛んでいる。

 ふと、3週間前に、優平がシェハウスから出て行った日の出来事を思い浮かべる。

 その日、スーパーマーケットのヴォンズで、声をかけた一人旅の日本人女の子にマリファナを勧めた。
すると、二つ返事で乗ってきた。
 リサは、すらりと背が高く、八頭身美人で、水泳と陸上を子供の頃から続けているので、彼女の身体は、アスリートの持つ肉体美と、女性らしいほどよいカーヴを持ち合わせており、大抵の男どもは振り返るし、女性にも好感を持たれるので、リサに誘われてノーという人はまれだ。
それが、たとえ警戒心が強く、マリファナにネガティブな印象を抱いている日本の女性でも例外ではないのだ。

 家がここから近いからと、彼女をシェアハウスに招いた。
素敵な家ですねと、彼女は携帯で写真を撮りまくっていた。
タバコは吸ったことがないというので、ハウスメートのボビーが作った、マリファナバター入りのクッキーを半分試させた。
 食べて、30分程したころだった。
その女の子、名はアヤカといったか。
吐き気がするというので、大丈夫、それは普通の反応で、慣れていない物が胃に入ってきたので、それを吐き出そうとしているのよ。
そこを少し耐えて、しばらくすると楽になって来るからと、説き伏せたのだが、彼女いきなり、ソファの前のテーブルに吐しゃ物をまき散らしたのだ。
その後、痙攣か何かわからないけど、ぴくぴくと顔を引き攣らせたので、あわてた。
大丈夫? と彼女に声をかけるが、ソファでぴくぴくしてるばかりで、答えてくれない。
えー 何よこの子、まさか小麦アレルギーか何かなの? 
救急車呼ぶ⁉ 
でもいくらカリフォルニアとはいえ、マリファナは非合法だし、とんでもないトラブル抱えちゃう⁉ とプチパニック。 
でも人の命には変えられない。
手遅れになる前にと、携帯電話を手にしてたとき、そこへ、タイミング良く、ハウスメイトの一人である、マリアナが帰宅した。
 オー、神様仏様マリアナ様! 
なんという奇跡的なタイミング。
彼女は看護師なのだ。

 ドアを開けて、入ってきたマリアナは、鼻をひくつかせると、顔をしかめながら、「なに、この匂いは?」 とリサを見てから、ソファーに倒れて、ぴくぴくしている女の子を見ると、側に行き、「どうしたのこの子?」 とやけに落ち着いて、リサに尋ねた。
 リサは、アヤカがマリファナ入りクッキーを半分食べた30分後に吐き、その後、痙攣か何かが始まったところに、マリアナが帰宅したことを早口に説明した。
 「あーそう。 わかったわ」 というと、顔を歪め、「とりあえず、そのテーブルの吐しゃ物を片付けようか」 というと、オープンキッチンの方へ行き、使い捨てビニール手袋、ペーパータオルとプラスチックの袋を持ってきて、
テーブルを掃除しだした。
 落ち着き払って掃除しているマリアナに、ちょっといらつきながら、「ねえ、マリアナ。 この子ぴくぴくしてるけど、大丈夫なの?」
 「えっ⁉ あー大丈夫だと思う。 時期に治まるわよ。 そうね、舌噛むといけないから念のため、タオルでも口の中に突っ込んでおいて」 というと、吐しゃ物の入ったプラスチックの袋を持ってドアを開け外に出た。
 えっ、タオル⁉ バスタオルじゃ大きすぎるだろうしと、辺りを見渡すと、キッチンカウンターの上にあるキッチンタオルが目に入った。
これだ! と、それを取り、ぴくぴくしているアヤカの顎を左手で押さえながら、右手に持ったキッチンタオルを彼女の口に押し込んだ。
これでひと先ずは安心か⁉ と、ぴくぴくしているアヤカを見下ろしながら、仁王立ちに腕組みしているところへ、ギターを背負った優平が帰ってきた。
 ギターを背負ったまま、心配そうに、アヤカの側にいるゆうちゃんに、事の顛末を語った。
 ゆうちゃんは、冷ややかな目を向けると、誰彼構わず日本人と見るや、マリファナを勧めるのはやめろと言った。
さらに、リサのやってることは、質の悪い新興宗教かなにかの勧誘と変らないとまで。
これには、カチンときた。
なんですって⁉ 私はね、マリファナのすばらしさをわかってほしいと、善意で、良かれと思って・・・ とかなんとか言ったと思う。
実のところは、興奮しすぎてその時の口論は、あまり覚えていない。
ただ、ゆうちゃんとの口論中に、アヤカは回復し、マリアナは一人掛けソファで、微笑みながら紙巻きマリファナを吸っていたこと、そしてその夜、ゆうちゃんが出て行ったことは、覚えている。

 そんな風に、ボードウォークに立ったまま、物思いに耽っていたとき、携帯電話の呼び鈴が鳴った。

 田口からだ。
 

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