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ダイブ・バー No.26 - Hacchi-
2020/06/30 (Tue) 19:21:20
優平と田口は、充血した目を瞬きながら、リサの住むシェアハウスの様子を窺うように見やると、どちらからともなく1978年製ダッジ・マグナムGTの分厚い鉄製の重く大きなドアをゆっくりと開けた。
足を外に投げ出すように出すと、二人同時に深い息を吐きながら外に出た。
二人は、スパニッシュ風の赤レンガとベージュ系に塗られた平屋の一軒家の前に仁王立ちになり、家の様子を窺うように、しばらくたたずむと、どちらかともなく、
「誰もいないみたいだね。 では、一服して待つかね~」 と、ドアを挟んで、置いてあるプラスチック素材で編みこんだチャコール色の椅子に座った。
「では、軽くパイプで吸いましょうかね」 と田口は、先ずは何やともあれいう風に、“マリーズボックス” と本人が呼んでいる小振の小箱を膝の上に乗せた。
それはネイビーブルー色の紙製に特殊樹脂コーティングが施されたツールボックスのようだ。
田口はその箱の上部の取っ手を二つに割るようにを開けると、きれいに並べてあるガラス製の円筒型容器群から一つ取り出すと、「パイナップル・ディゼルの気分かな~」 とおどけて語尾を上げ伸ばす。
田口は同意の確認をするかのように優平を見つめると、その容器の上部を親指と人差し指で軽く圧をかけた。
上蓋がぽ~んと小気味良い音をたてて浮いた。
すぐさま、大麻草特有の香ばしい匂いが漂う。
優平が目を閉じ、鼻を利かすように、その匂いを堪能すると、「甘みのなかにほのかに香る酸味が効いているところに、ほのかな草の匂いが混じって、嗅いだだけで軽く飛びますね」 と、頷きながらしきりに感心していた。
田口は笑みを浮かべながら満足そうに頷くと、「でしょ~」 とまた、語尾を上げ伸ばしいうと、その容器から、一つまみすると、ガラス製の3インチパイプに大麻草を詰め、優平に、どうぞとばかり手渡した。
雲一つない青い空を見上げる。 サングラス越しでも目を細めるほどの眩しさに目がくらむ。 何度か瞬きを繰り返すうちに、ダイヤモンドダストに似た空気中で無数に瞬く粒太陽光線は、行く先を阻むものは何もないとばかりに、容赦なく降り注ぐ。
ゆらっと身体がしなってるのかなしてきたかなと優平は怪訝な表情を浮かべると、何気なく田口の方を見やる。
田口はゆっくりと左右に揺れながら少し笑みを浮かべ、遠くを眺めている。
田口が口を開く。
「あれは、ぼくがLAに着いて2週間ほどたった頃かな」
眩しそうに目を細め、少し間を取る。
「チャイナタウンにあるバーに、ドクターと呼ばれている東洋人で腕利きハスラーが居るといううわさを聞いて、8時ごろに様子を見るつもりで行ってみたんだ。
あまり遅く行くのも怖い感じがしてね」 と、田口は優平に向かっておどけたようにすくんで見せた。
「8時でもLAのチャイナタウンに足踏み入れたくないですねー」
優平は警察物のドラマで、捜査のためにチャイナタウンに踏み込むシーンを思い出す。
大麻草の効果か、リアリティのある想像になり心底すくみあがった。
それを見ていた田口は、目をひん剥き、
「なにー 優平君。 今チャイナタウンに行っておどろおどろしい事でも想像していたんでしょう?! いいなあー そんなにハイになっちゃって!」 と、少し身体をしならせた。
「それが案外そうでもないのよ。 そりゃ、どこの街のチャイナタウンも一種独特の雰囲気があって、中国語飛び交ってるイメージあるけど、いきなり首切られたりはしないわよ~ 入ったバーなんて、良きアメリカのバー、それはアメリカのどこの街でも一軒や二軒はありそうな、ジュークボックスがあって、ビリヤード台があって、長いカウンターバーがあってというやつよ」 と、そこまで一気に言うと、田口はボトルウォーターをごくごくとうまそうに飲んだ。
優平は映画 『ハスラー2』 や他の映画に出て来る幾つかのバーを思い浮かべていた。
どれも、基本的に似通っていて、田口の言う通り、そこではカントリーやロックが流れ、バーカウンターには、キャメロン・ディアスみたいな大柄な金髪美人が大きな口角を上げ、「ハーイ」 と微笑を浮かべ、何する? とばかりに、片眉を上げる。
店の奥には、ビリヤード台があり、ジーンズにネルシャツを着たジェフ・ブリッジスみたいな、ひげ面の大男が、バドワイザーかなにかのビールをボトルで飲んでいる。
「それで、その店行ってね、バーカウンターでビール注文してるときに、奥の方から、「ヘーイ ドクター・ヤス @*+#・・・」 という声が、奥の方から聞こえてきたのよ。
それで、えっ?! ヤスってことは、日本人?! ということ?! って」
「ヤスシ、ヤスヒロとかイエヤスという可能性も?!」
「でしょう?! それで、ビールもって急いで奥の方に行ってみたわけ。 そしたら、長い黒髪をポニーテールにした彼がちょうど、キューを打とうとしている姿が目に飛び込んできたの」
そこまで言うと、田口は芝居がかったように両手で口を押え、
「あたし、なにかデジャヴュか何かのような、ちょっと説明つかないような感情におそわれたの」
「リョウさん、決まり過ぎていたのじゃないんですか?」
優平はアメリカ留学来てからの経験から、大概のこの手の話、UFOや幽霊見たという顛末は、決まり過ぎていたということなのよね。 と、懐疑的に冷ややかな目で田口を見る。
「ううん」 と田口は激しく首を左右に振り、
「あの頃はまだ、マリファナどころか一切のドラッグ未経験よ。 とにかく、奇妙なほどの既視感というものを味わったのよ。 それに彼には後光が差していたの。 男が男に一目惚れしたのよ」